論文紹介: PoWブロック報酬に対する公理的アプローチ

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概要

主なプルーフ・オブ・ワーク(PoW)型ブロックチェーンは、ブロックごとの報酬を固定し、各ブロックで最初に難しい暗号パズルを解いたマイナーに全報酬を割り当てています。マイナーが独立かつランダムに暗号パズルの可能な解を推測・確認すると仮定すると、マイナーが得る報酬の期待値は、貢献した総計算能力のシェアに比例します。比例報酬分配方式はシンプルで自然であり、非常にわかりやすいモデルです。しかし、それが「最適」かどうかを判断する必要があります。この論文[1]では、このようなブロック報酬メカニズムに対して公理的アプローチによって「最適性」を判断しています。

比例分配方式とその代替

まず、分配方式という概念を通じて、上記の問題を定式化しています。これは、貢献したハッシュパワーを、ブロック報酬の期待値にマッピングする関数です。このような関数への入力は、正の整数の n-タプル h = (h_1, h_2, ..., h_n) であり、h_i は与えられたブロック生成エポックでマイナー i によって貢献されたハッシュレート、n はハッシュレートを貢献したマイナー(すなわち、公開鍵)の数です。ブロック生成エポックが終了し、新しいブロックが認可されると、1 単位の報酬が利用可能になります。問題は、それをどのようにマイナーに割り当てるべきかということです。この質問に答えるために、分配方式の出力は、n-タプル p = (p_1, p_2, ... , p_n) の形で示します。ここで p_i はマイナー i への報酬期待値です。前述したビットコインプロトコルの分配方式は、以下のように表すことができます。

p_i = \frac{h_i}{\sum_{j = 1}^{n}h_j}

一見すると、PoW 型ブロックチェーンは比例分配方式を実装するしかないように思えるかもしれません。なぜなら、おそらくどのマイナーが最初に暗号パズルの解を生成するかの確率分布は、貢献した計算パワーに比例すると思われるからです。しかし、以下の章節で示すように、豊富な種類の分配方式は原理的に PoW 型ブロックチェーンで(少なくとも近似的に)実装することが可能です。重要なことは、高難度パズルに対する単一の解答ではなく、中難度クリプトパズルに対する多数の解答を待つことです。

分配方式の特性

分配方式の定義は十分汎用的です。問題は、そのような方式はどのような特性を満たすべきかということです。

  • 非負荷性:報酬期待値(p_i)は非負であるべきです。つまり、プロトコルはマイナーからの支払いを要求することはできません。
  • 予算残高:プロトコルは「赤字」であってはいけません。つまり、ブロック報酬期待値の合計が、利用可能なブロック報酬の単位を上回ってはいけません。強い予算残高は、ブロック報酬の全単位を割り当てることを強調し、弱い予算残高は、プロトコルがブロック報酬の一部をマイナーから差し引くことを可能にします。
  • 対称性(Symmetry):分配方式は、マイナーの名前(すなわち、公開鍵)に依存してはならず、貢献したハッシュ・レートのみに依存します。

最後に、ブロックチェーンの設計者が望ましくないと考える、マイナーによる特定の行動を抑制することを目的とした、さらなる特性が 2 つあります。

  • シビル防止(Sybil-proofness):多くのアカウントを作成し、その中でマイニングパワーを分散させることによって利益を得るマイナーはいない。
  • 共謀防止:2 人以上のマイナーがマイニング資源をプールし、その収益を分配することによって利益を得ることはできません。この性質は、共謀するマイナー間でどのような種類の支払いが許容されるかに応じて、異なるバリエーションがあります。

比例分配方式は、5つの特性すべてを満たします。

結果

論文中ではどの配分規則がどのような特性を満たすかを明らかにするために、多くの特性化結果が証明されています。まずはじめに報酬期待値のみを気にする(報酬分布の他の詳細については気にしない)リスク中立的なマイナーについてです:

定理1:比例分配方式は、リスク中立的なマイナーに対して、非負荷性、強い予算残高、対称性、シビル防止、弱い共謀防止を満たす唯一の割り当てルールである。

比例分配方式をより一般化して結論を弱めた結果も証明されています。

しかし、マイナーがリスク中立的であるという仮定が妥当でない状況も考えられ、マイナーがリスクを回避しようとする場合についての結果も証明されています:

定理3:マイナーがリスク回避的である場合、対称性、(弱い)予算バランス、シビル防止、弱い共謀防止を満たす非ゼロの割り当てルールは存在しない。

これによって、マイニングプールが共謀を避けることができないことが示唆されます。

一方、マイナーがリスクを追求しようとする場合には、

定理5:マイナーがリスクを追求しようとする場合、比例分配方式は非負荷性、強い予算残高、対称性、シビル防止、強い共謀防止を満たす。

という結果が示されます。また、ビットコインの分配方式はランダム性を含みますが、比例分配方式にランダム性がなく、決定的な場合を仮定すると、マイナーがリスク回避的である場合であっても非負荷性、強い予算残高、対称性、シビル防止、強い共謀防止が満たされます。

まとめ

この記事では、マイニングの分配方式についての論文[1]の概要をまとめました。
[2]でも書かれている通り、ビットコインのPoW自体の変更を伴う提案も(実際に採択されるかは別にして)引き続き行われており、より良い報酬方式が存在すれば同時にハードフォークが行われ更新される可能性はあります。
論文中では、分配方式やその性質を数学的に定義し、証明を行なっていますが、この記事では詳細を省略しました。
これらの点については元論文を参照してください。

参考文献

[1] An Axiomatic Approach to Block Rewards https://arxiv.org/pdf/1909.10645.pdf

[2] Proof of Necessary Work: 再帰的SNARKを使ったビットコインの全ブロック検証 https://tech.hashport.io/3248/

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